時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。

昭和63年。銀座のキャバレーでピアノを弾いていたジャズピアニスト志望の博は、謎の男からのリクエストで“あの曲”こと「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏する。しかし“あの曲”をリクエストできるのは銀座を牛耳るヤクザの親分・熊野会長だけで、演奏を許されているのも会長お気に入りのピアニスト・南だけだった。未来に夢を見る博と、夢を見失ってしまった南の運命は絡みあい、多くの人々を巻き込みながら事態は思わぬ方向へと転がっていく。

イタリア・トスカーナ地方の大邸宅に住み込みの看護師としてやって来たヴェレーナ。母の死以来、心を閉ざしてしまった少年を献身的に看護するが、彼は言葉さえ発しない。やがてヴェレーナは、石壁の向こうからささやくような不気味な“声”を聞くようになる。