森鴎外の同名小説を、八尋不二と依田義賢が共同で脚色し、溝口健二がメガホンをとった文芸作品。特に美術と撮影はレベルが高く、ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。美しいラストシーンは、ゴダールが「気狂いピエロ」において引用したことでも知られる。 平安時代末期、農民を救うため将軍にたてついた平正氏が左遷された。妻の玉木、娘の安寿と息子の厨子王は越後を旅している途中、人買いにだまされ離ればなれになってしまう。玉木は佐渡に、安寿と厨子王は丹後の山椒大夫に奴隷として売られた。きょうだいはそれから十年もの間、奴隷としての生活を続けるが、ついに意を決して逃げ出すことにする。しかし追っ手に迫られ、安寿は厨子王を逃すため池に身を投げるのだった。
女性史研究家・三谷圭子は、“からゆきさん”のことを調べる過程で天草で小柄な老女サキと出会った。サキがからゆきさんと確信した圭子は、彼女が経験した過去を聞き出すため、共同生活を始める。やがて、サキはその重い口を少しずつ開いて、あまりにも衝撃的な生涯を語り始めるのだった……。
蒲田に妻と住む杉山正二は、丸ノ内への通勤途中で知り合ったサラリーマンたちと仲良くなり、退社後に遊びに行くのが日課となっていた。妻は退屈な毎日から逃れるように、おでん屋を営む母の実家へ帰ったりしている。通勤仲間と出かけた江ノ島で、杉山は金子千代と接近。千代の誘惑に耐えきれず、関係を持ってしまう。二人の関係に気づいた杉山の妻は家出して、旧友のアパートに転がり込んだ。同僚の死をきっかけに、杉山は自分の生き方を振り返り、千代と別れようと考え始める。ちょうどその頃、会社で地方工場への転勤話が持ち上がった。小津安二郎が野田高梧とともに書いたシナリオを監督し映画化。不倫に揺れる昭和30年代のサラリーマン夫婦を描く。
三村新之丞は東北の小藩に仕える三十石の下級武士。剣術の覚えもあり、藩校でも秀才と言われながら、現在の勤めは毒味役。張り合いのない役目に不満を持ちながらも、美しく気立てのいい妻・加代とつましくも笑いの絶えない平和な日々を送っていた。ところが、そんな平穏な生活が一変してしまう。貝の毒にあたった新之丞が、一命は取り留めたものの失明してしまったのだ。絶望し、自ら命を絶とうとする新之丞を、加代は懸命に思い留まらせるのだった。しかし、武士としての勤めを果たせなくなった以上、藩の沙汰次第では生きていくことも叶わない。そこで加代は、嫁入り前からの顔見知りだった上級武士の島田藤弥に相談を持ちかけるのだったが…。
地方都市。中学生の雄一は優等生の星野と親しくなるが、夏の旅行をきっかけに友人たちの関係は変容する。新学期、クラス一の不良をけんかで倒した星野は、やがて彼自身が暴君と化していく。暴行や万引き、クラスメートに売春させるなど、エスカレートする彼の行動に、いじめの対象となった雄一も荷担させられることに。雄一は現実から目をそらすように、崇拝するアーティスト、リリイ・シュシュのファンサイトを作る。
勝新太郎が盲目の居合抜きの達人・座頭市を演じ、彼の代表作となった人気シリーズの第1作。博打のツボ振りと居合抜きの達人である盲目の男・座頭市は、下総飯岡の貸元・助五郎の食客となる。市は肺を患う浪人・平手造酒と知り合い友情の念を抱くが、平手は助五郎と対立する笹川一家の食客だった。やがて市と平手は、運命的な対決へと導かれていく。
黒澤明監督が村田喜代子の原作を基に、かつて原爆を体験した祖母の許を訪れた4人の孫が体験するひと夏の出来事を描き、反核を訴える感動ドラマ。夏休み。長崎から少し離れた山村に住む老婆・鉦の許に4人の孫たちがやってきた。都会の生活に慣れた孫たちは田舎の生活に退屈を覚えながらも、長崎の街にある戦争の傷跡や鉦が話す昔話を聞いて、戦争に対する考えを深めていく。
死が予定されている人の前に現われて相手を7日間観察した後、その死を“実行”にするか“見送り”にするかの判定を下す、死神の千葉。雨男の彼は今まで晴れた青空を眺めたためしがない。そんな彼の今回の観察相手となるのは、27歳の薄幸なOL、藤木一恵。ある電機メーカーで苦情処理係をする彼女は、最近あるクレーマーからの執拗な電話に悩まされていた。そんな彼女にほだされた千葉は、珍しく“見送り”の判定を下すが……。
人気時代劇シリーズ第3作目。故郷に帰って来た市は、彼の剣の師匠である水戸浪士の弥十郎(河津清三郎)の妹・弥生(坪内ミキ子)に求愛されるが、弥十郎はそれを許さない。やがて市は、金に目がくらんで悪事に手を染めていく彼と対決せざるをえなくなっていく。
人気痛快時代劇シリーズの第4作。上州・下仁田にやってきた座頭市。折しもその地では、地元の若い親分・佐吉の二代目の襲名披露が近く行なわれようとしていた。市が投宿した旅籠の娘のぶは、佐吉と恋仲にあったが、のぶの養父・島蔵は、かつて先代の親分と諍いを起こした末、やむなくカタギの旅籠の主人となった過去の宿縁があり、今なおやくざ渡世に未練を残していた。矢切の東九郎は、そんな島蔵をたきつけて、佐吉の襲名披露を兼ねた花会を邪魔しようと企む。
徳川5代将軍・綱吉の泰平の御代、赤穂浪士たちが吉良上野介を仇討ちするかどうかに関心が集まっていた元禄15年。父親の仇討ちのため、郷里を後にした若侍、青木宗左衛門の江戸暮らしも半年を過ぎ、庶民の町での生活もすっかり板についていた。いつしか自宅の向かいに住む夫を亡くした女性、おさえに恋心を抱くようになった彼だが、実は武士とは名ばかり。剣の腕前がからっきしだめなことが長屋の面々にも知れ渡ってしまう。
1865年京都。新選組は新たに隊士を募集し多くの志願者が集まる中、一際異彩を放つ美少年がいた。加納惣三郎と名乗るその青年は剣豪・沖田総司をも手こずらせる程の剣の腕の持ち主だった。そして、もう一人、加納と双璧をなす程の剣の腕の持ち主・田代彪蔵の二人が入隊を許可された。しかし、この二人の入隊によって新選組内部の空気は少しずつ変わっていくことになる。田代は衆道(男色)の気を持つ男であり、惣三郎を衆道に引きずり込もうとしていた。そんな中、惣三郎に密かに想いを寄せていた隊士・湯沢藤次郎が何者かによって惨殺される。土方は湯沢の恋敵であった人間が斬ったのではないかと疑い始める。
吉原の玉菊屋に連れてこられた8歳の少女はきよ葉と名付けられ、高級花魁で気の強い粧ひに面倒を見られることに。何度も脱走を試みるきよ葉だが粧ひや玉菊屋の清次などに導かれ花魁になることを決意する。17歳になったきよ葉は持って生まれた美貌と気性の強さで一躍売れっ子となる。やがてきよ葉は、お客として来た青年・惣次郎と恋に落ちる。
江戸北町奉行所の同心で、その切れ味鋭い頭脳と精力絶倫ぶりから“かみそり半蔵”との異名を取る板見半蔵。ある日、江戸市中で無宿人狩りが行なわれ、半蔵は、島送りにされていた重罪人の人斬り屋・三途の竿兵衛が島破りをしてどうやら江戸に潜んでいることを知る。竿兵衛の愛人・お美乃を捕らえた半蔵は、自らの男性的魅力で彼女を陥落させて、今回の事件の裏に大奥にまで広がる意外な悪事が秘められていることをさらに知る。
俳優になるために上京したものの、鳴かず飛ばずの日々を送る27歳の悠二。彼はある日、高校時代に圧倒的な存在感を放っていた同級生・佐々木 と仲間た ちとの日々を思い起こす。常に周りを巻き込みながら、 爆発的な生命力で周囲を魅了していく佐々木。だが佐々木の身に降りかかる“ある出来事”をきっかけに、保たれていた友情がしだいに崩れていく——。
東京・明大前で開かれた学生最後の退屈な飲み会。そこで出会った<彼女>に、一瞬で恋をした。下北沢のスズナリで観た舞台、高円寺で一人暮らしを始めた日、フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり…。世界が<彼女>で満たされる一方で、社会人になった<僕>は、″こんなハズじゃなかった人生″に打ちのめされていく。息の詰まる会社、夢見た未来とは異なる現実。 夜明けまで飲み明かした時間と親友と彼女だけが、救いだったあの頃。でも僕は最初からわかっていた。いつか、この時間に終わりがくることを…。